忙しくてなかなか記事をアップできないのですが、ずっと見たかった作品を視聴できました。Netflix オリジナル映画「2人のローマ教皇(The Two Popes)」です。
コソコソおしゃべりしているのは泣く子も黙る世紀の2大名優、アンソニー・ホプキンス&ジョナサン・プライス。
このお二人の演技と会話の妙(=脚本)がすべてです。絶品イタリアン(バチカンなので)をコースでたいらげた上に最高のワインを飲んでも飲んでも驚きが続くような味のある作品。
しかも重くない。むしろ軽妙洒脱でスピーディです。
性格も考え方も対照的な2人の教皇の会話は、もちろん教義やカトリック信者や教会のあるべき姿、神の声などが中心ですが、でも、これは、宗教の垣根を超えて、どんな人にも共通する普遍的な考え方のお話でした。
いえ、もちろん、キリスト教の物語として掘り下げるときっと深いお話が潜んでいるに違いありません。でもワタクシ詳しくないので、そういう意味では面白みは半減するのだろうなと思っていたのですけど、そんなことはありませんでした。
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眉間にシワの重厚長大劇ではなく、クスッと笑えるウィットに富んだ会話、探り合いをしながら切り込む名優達の演技から目が離せません!
アカデミー賞3部門ノミネートも納得です。
世界最小の国、バチカン市国がどれだけ多くの人に影響を与え、政治的にも無視できない発言力をもつかはご存知の通り。世界のカトリック信者数は約13億人・世界人口の約17%という2018年のレポートがありました。
そんなカトリックの頂点に立つ現在と先代の教皇の物語です。
2人の教皇&キャラクターをご紹介します
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まず、教皇ベネディクト16世(アンソニー・ホプキンス)。
1927年ドイツ・バイエルン州出身、第265代ローマ教皇として2005~13年。本名ヨーゼフ・アロイス・ラッツィンガー。ヨハネ・パウロ2世の逝去によりコンクラーベで選ばれ、自身の意志で退位しました。700年以上ぶりのことらしいです。
とにかく真面目で厳格で学究肌の人。ですが教義と現実社会のズレは埋めようがなく、苦悩しながら後継者を説得、自らを解き放つ過程が描かれます。
今さらですが、アンソニー・ホプキンスは1937年ウェールズ出身、現在82歳ですね。舞台を経て映画「冬のライオン」(1968)、「エレファント・マン」(1980)、「羊たちの沈黙」(1991)、「ハワーズ・エンド」(1992)、「日の名残り」(1993)、「ハンニバル」(2001)、「レッド・ドラゴン」(2002)、「マイティ・ソー」(2011)シリーズなど代表作に困るお方。最近ではドラマ「ウエスト・ワールド」(2016-)。
ベネディクト16世の真面目すぎる少年時代が語られますが、ピアノが得意で古いポップスを弾いたり、ドラマでは「レックス」がお好きなようでした。オーストリアの警察犬REXですね! 主人公は変わってましたから新しいシリーズでしょうか。
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ホルヘ・マリオ・ベルゴリオ枢機卿→現在の教皇フランシスコ(2013-)(wikipediaによると“1世”はつけないそうなので、フランシスコのみです。)がジョナサン・プライス。
2019年11月の来日からもうすぐ1年ですね。
ローマ教皇としては38年ぶりの来日で、長崎・広島からメッセージを発したこと、東京で東日本大震災の被災者と会ったことは世界中で報道されました。大変な発信力でした。
私の訪日に際し、皆様が私を真心を込めてあたたかくお迎えくださったことに対し、私は日本のすべての皆様に深く感謝申し上げます。お祈りの内に皆様のことを心に留めております。
— Pope Francis (@Pontifex) November 26, 2019
↑は話題になった日本語ツイート。日本からも毎日発信がありました。
1936年アルゼンチン・ブエノスアイレス生まれの第266代。初のアメリカ大陸出身の教皇だそうです。貧しい人への支援や中絶・LGBTQ、世界の紛争・難民問題にも積極的な改革派、行動する教皇といっていいのでしょうか。
演じるジョナサン・プライスは1947年ウェールズ出身の73歳。RADA卒業後、舞台で活躍。トニー賞を何度も受賞しています。映画では「未来世紀ブラジル」(1985)!、「エビータ」(1996)、「007 トゥモロー・ネバー・ダイ」(1997)、「パイレーツ・オブ・カリビアン」(2003-)シリーズ。ドラマでは「ウルフ・ホール」(2015)、「ゲーム・オブ・スローンズ」(2015)のハイ・スパロー! など話題作揃い。
一度コンクラーベで敗れ、母国で活動していたベルゴリオ枢機卿は、枢機卿の辞表をもって教皇のもとを訪れますが、何度もはぐらかされて受理してもらえません。何日も“お話”に付き合わされることになるのでした。
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危険な街で育って、サッカーファンでジョークが好きでフットワークが軽いベルゴリオ。ですが、若い頃に軍事政権を経験し苦悩したことが描かれます。
宗教家として何が出来るのかを考えて考えてたどり着いた活動は、社会と切り離せないものでした。強い意志と行動力が必要とされますね。
ベネディクト16世は、今の時代に必要な人材として、ベルゴリオ枢機卿に後を託したいと思ったのでした。
汚職や性的虐待事件など、カトリックへの信頼が揺らいだ時期、対処法の誤りを認めてようやく肩の荷が下りたようでした。
実際のインタビューや発言をセリフとして構成した脚本が素晴らしい
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2人の会話が楽しいんです! シビアでどきっとすることもあれば、↑のように、初めてのピザに喜ぶベネディクト16世とか、
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バチカン観光客の間を通って歩く時間を楽しんだり。
華麗なバチカンの雰囲気も堪能できました。実際はバチカンロケなんて許可が下りるわけはなく、他の場所で撮影したり、合成したりしたそうです。
が、あまりに自然な映像にびっくりします。
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「メディチ」などイタリアもの、歴史ものが好きなら楽しめます。コンクラーベのシーンは、ドラマや映画で想像していた知識をあらためて映像化してくれてワクワクしました。
教皇の移動はヘリコプターだったり、秘書が活躍したりと現代的な、それこそ国家元首な日常も伝わってきます。↓は現実のベネディクト16世&フランシスコ。
何より会話の内容が素晴らしいです!
どこかで読んだ記事によると、このお2人が公式に対談した記録はないそうです。何と、これまでの膨大な発言をひろい集め、つないで再構成した脚本とのこと。驚きです。
脚本のアンソニー・マクカーテンはニュージーランド出身。主な作品は「博士と彼女のセオリー」「ボヘミアン・ラプソディ」。大学でアートを学び、新聞社でジャーナリストとして働き、小説やノンフィクションの作家としても活躍しているそうです。(現在、ホイットニー・ヒューストンの伝記映画「I Wanna Dance with Somebody」製作中とか。)
このような考えでキャラクターの人ならこんな会話をするはず、という想像に基づくクリエーション。
全てオリジナルの台詞でなくても、それがリアルで説得力があるなら脚本家冥利に尽きるのではないでしょうか。
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ちなみに監督は「ナイロビの蜂」などのフェルナンド・メイレレス。ブラジル出身ゆえのアルゼンチンへのシンパシーでしょうか、情熱的でちょっと切ない南米調の音楽が軽やかで救いでした。
最後はサッカー好きの教皇フランシスコが名誉教皇ベネディクト16世と2014サッカー・ワールドカップ決勝アルゼンチンVSドイツをTV観戦するシーンで終わります。
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紛争や難民問題に発言するフランシスコの、誰もが無関心で自分に責任はないという時、全員に責任があるという言葉。難民たちとミケランジェロの最後の審判が映し出される映像は重いです。
カトリックのみならず、宗教には何ができるか、宗教を介さなくても人類ができること、信念をもって立ち向かうべきことは何なのか、を問いたかったのでしょう。
貧しい人々や社会に尽くしたアッシジの聖フランチェスコを引き合いに出されることが多い教皇フランシスコ。教皇に選出されたとき、慣例だった正装でなく、白い普段の服装で現れました。サンピエトロ広場を埋め尽くした人たちは熱狂していましたね。鳥肌もんです。
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↑はベネディクト16世ですが、ワタクシ一度だけバチカンに行ったことがありまして、ローマ観光のほんの一瞬だったのですが、世界のあらゆる国から集まった多様な人種、年齢の信者たちのエネルギーに圧倒されたのを覚えています。
リーダーシップとは何だろうと考えてしまうと同時に、より良い未来を信じたいと感じた作品でした。